ふざけ倒して会計士になった人

あなたが、今、このブログをみているということは、私はもうふざけてないかもしれません。

【本】さむけ【奇妙な物語】

今回読んだ本は、「さむけ」という本です。

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9名の作者がそれぞれ短編小説を書いたオムニバス小説です。

その9作品は

さむけ 高橋克彦

厭な子供 京極夏彦

天使の指 倉坂鬼一朗

犬の糞 田島斗志之

火蜥蜴(サラマンドラ) 井上雅彦

頼まれた男 新津きよみ

蟷螂の気持ち 山田宗樹

井戸の中 鶴巻礼公

もののけ街 夢枕獏

 

となっており、表紙のデザインが気に入ったのと、映画空海の原作「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」の作者の夢枕獏さんの作品が入っているというのと、表紙のデザインが気に入ったので購入しました。

読むとどの作品も、各地のご当地料理のように一癖も二癖もあります。

怖い!薄気味悪い!恐い!奇妙!よくわからない!やばい!など様々な感情が呼び起こされました。

 

読んだ後の後味がなんとも不気味だったので、いろいろな感想やレビューコメントを読んでしまいました。

 読んだ後味がいまいちわからず、おいしいのかまずいのかわからない!という不安から、他の方のレビューを観て、自分の感覚は普通なのか確かめたくなりました。

 

 

感想※ネタバレ含む

全体的に幽霊メインではなく、世にも奇妙な物語のようなこわさがありました。

下ネタ描写も多数ありますが、ホラー系ときっても切り離せないものがあるのかはわかりません。

作品全体にありましたが、繰り返しのテクニックが面白いです。同じフレーズを複数回使うことで、短編作でも印象に強く残る感じがありました。

 

さむけ

心理戦からのオチが急展開すぎました。

2か月毎日隠しカメラのテープ替えにいくのかよ!という部分が気になって、高度な読み合い・駆け引きを期待しつつも少し冷めてしまいました。

1998年の作品だそうで、時代を考えたらしょうがないのですが、テクノロジーの進歩によって色褪せする作品もあるんだなぁと感じました。

好き度★

 

厭な子供

精神病の夫婦のもとに現れた気味の悪い子供。主人公が幽霊の存在を合理性の視点で裁いていく段階は、その考え自体が厭だ~と思いました(笑)

恐怖の伝染という、誰かが怖がって実際に怖いモノがいる前提の行動をするとほかの人にもそこに怖いモノがいるように錯覚するという話は納得でした!

精神病患者は、とある現実から目を背けたいがために、非現実的な物事に支配されるといいますが、その心理を上手にとらえています!

何も危害を加えないけど、すごく厭な子供。その子供のせいにして現実の出来事から目を背ける主人公というのがリアルで、精神的ホラーと思ったところでしっかり斜め上のオチがあり面白かったです。

好き度★★

 

天使の指

布石のように、初めに親子なかがうまくいってない、懇親会、そば打ちと謎の深まるポイントがプロットされ、疑問が残るけど想像がつかない展開が面白かったです。

グロい怖さと人間の欲深さという怖さが際立った作品です。

お金持ちや成功者はどういう風に生まれるのか!?そのためにどんな代償を払っているのか?という部分がわかる作品でした。
お金持ちになる人はある種の精神的な絶望を糧にして成りあがるのですが、その絶望を儀式的に行うという発想が面白いです。

ただ、主人公が予定調和すぎたので、伝統に歯向かったバッドエンドの方が主観的で直接的なこわさがあったのかなとも考えました。

そう考えるとこの作品のオチは、「人間の欲の怖さ」という印象を植え付けます。

好き度★★★★★

 

犬の糞

隣人トラブルの怖さ、人間トラブルと同情の怖さがあります。

主人公は、無難に無難に過ごそうという気持ちの持ち主ですが、裏を返すと物事に反応してるだけ。心では勇気を出しても、現実はただ周りに流されてるだけという点で、安定主義の考えでは通用しないこともあるのだと改めて考えさせられました。

最後の主人公の妻の行動がリアルな道徳論になるのかと思います。積み重なるいやがらせを考えれば、同情できますが、同時に人としての道を外す瞬間でもあります。自分を守り大切な家族を守るためではありますが、本当にこの妻は「悪」なのか!?と疑問を持ちました。

学校では取り上げられないような話ですが、道徳というもののディスカッションの題材になりそうです。

好き度★★★

 

火蜥蜴(サラマンドラ 

理解力が足りないだけ!?例えの表現かとおもったら場面の移り変わってたりと混乱してしながら読み返しまくりでした。

わずか30ページにこれほどファンタジーが詰め込まれているとは思いませんでした。

謎を謎のまま進めていく。綺麗に問題を解決するだけがすべてではないというのは新しいと思いました。怖いけどなんかスタイリッシュでかっこいい!

好き度★★★★

 

頼まれた男

DV夫による殺人事件

なぜDVになったのか、なぜこんな結末になってしまったのかというところが、ふり幅がありまくりで面白かったです。

生まれながらの従順な僕が、立場を逆転した瞬間、権力を振りかざすのではなく奴隷だったころに戻りたいと思うという考え方がすごいです。

好き度★★★

 

蟷螂の気持ち

予定調和な展開ではありあますが、読みやすいです。

あまり接点がない人が急接近してきてからのトラブルはホラーの展開として面白いものがあります。

哲学は個人個人で違ってよいとおもいますが、この女性の考え方はなんか不気味

好き度★★

 

井戸の中

井戸=貞子というイメージを逆手に取った印象を感じました。

なんか怖そうな展開がまっているようで、怖さの元凶が最後までわからない

井戸の亡霊?おばあちゃん?随所随所にでてくる隣人?はたまた主人公?怪しむとどれが、化けても成り立ちそうでハラハラします。

ホラーは主人公の考え方が普通じゃないというところも怖さを引き立たせます。

主人公目線にもかかわらず、おばあちゃんを鍵のかかる小屋にとじこめよう!蛇に消化されちゃうまで待とう!とか正気の沙汰ではないです!

好き度★★

 

もののけ

しっかり腑に落ちる綺麗なオチ。読み終わったあとのすっきり感が一番でした。

めまぐる奇妙な出来事が展開されて行って、いろいろな選択をしたにもかかわらず結局は何も進展してないので、後味が悪いのかもしれませんが、主人公が人としての道を外さなかったところが特に嬉しかったので、後味がすっきりした印象を感じたのかもしれません。

結局、実際に誰も傷つけることがなかったのですが、もしこの話に続きがあるとしたらそれでも復讐に手を染めてしまうのか。

主人公は気持ちの上では復讐を果たけど、事実には残っていない。サイコパス的な考えだったらもう1度復讐をすることができる。普通の人だったら、実際に犯罪を犯さなくてよかった。と考えるのではないかなと思い、主人公は果たしてどちらの人間なのでしょうか。

好き度★★★★★