ふざけ倒して会計士になった人

あなたが、今、このブログをみているということは、私はもうふざけてないかもしれません。

【映画評】スマホを落としただけなのに

今回は2018年11月2日公開の映画『スマホを落としただけなのに』について映画評します。

 

総括

本作品は、暮らしで必需品スマートフォンスマホの普及に伴い人々のコミュニティ手段の一部となったSNSから派生されるサスペンスだ。

もしも、スマホを落としたとしたら、待ち合わせの連絡など人とコミュニケーションをとるのも一苦労だ。そのもしもの事態に合わさって落とし物の発見者が良心的な人でなかったとしたら…というまさに最悪の事態を映画化している。

 

スマホは電話履歴やメールなどコミュニケーション履歴はもちろんのこと、プライベートの写真やメモまで大切な思い出や記憶などありとあらゆるデータが入っている。ただし、情報へのアクセスを守るためにパスワードがあるが、これは最初で最後の砦といってよい。犯人はスマホの所有者をSNSなどで特定し、そこから得られた情報でパスワードを解除してしまう。

無事にスマホが手元に戻ってきたことに安堵するも、その裏でじわじわと闇の影が近づいてくる。

パニックサスペンスである。

主人公である稲葉麻美(北川景子)は、ただただ追いつめらて行くのだが、実際は映画のように、奇跡的なタイミングで周りが助けてくれることはまずないであろう。スマホの危険性で不安を煽ることで、スマホユーザーのセキュリティ強化など危機管理力を高めるという社会的なメッセージもあり面白い。

 

実際に、誰しもが1度はスマホやネット上でトラブルにあったことはあるだろう。

例えば、ページをクリックしただけなのに架空請求が送られてきたり。友達のSNSで多分自分の悪口を言っているのだろうと気づいたり。画面上、文字情報だけしかわからないと見えない不安をさらに感じる。

ホラー映画はクラスメイトが次々に襲われていくなど、巨大な恐怖が複数の人に降りかかるが、本作品はひとりの人物に対して恐怖を与え続けるため、北川景子が徐々に崩壊していく演技も注目である。

さらに、犯人役の奇妙すぎる行動も非常に注目度が高い。

 

 エピソード

ヒロイン稲葉麻美(北川景子)の彼富田誠(田中圭)は得意先との商談のため、タクシーで移動中渋滞に巻き込まれる。焦るあまりスマホを車内に忘れてしまう(なくした側からすればスマホを落としたと表現するのかもしれない)。

稲葉麻美と富田誠は交際期間もながく、富田誠がプラネタリウムでプロポーズする。が、稲葉麻美はもう少し考えたいと訳アリらしい。仲の良い同僚に家族にも会わせたくないという相談をするなど、原因が彼ではなく彼女の過去にあることを示唆する。

同時に長い黒髪の女性の遺体が5体も山林に埋められていることが発覚し刑事たちが捜査に動き出す。

 

追いつめられる主人公・刑事・犯人の3つの視点で物語が進んでいく。

物語の序盤は共感をベースに進む。スマホの機能やアプリなど作品ではアプリ名は違えど、LINEやFacebookなど鑑賞者の日常とリンクさせることによって、物語の世界に鑑賞者を引きずり込む。

 

その後、物語の中盤から「なりすまし」、本人の生活感を把握してるがゆえにクリックしてしまう「フィッシング詐欺」、稲葉麻美のSNSアカウントの「のっとり」など周りの人間関係を断ち切るような出来事が次々におこり、犯人に追い込まれていく。犯人の情報操作は加速し、最大の理解者であり頼れる存在の彼氏の富田誠とも痴情のもつれを原因に2人の距離に溝ができてしまう。
最終的に犯人に稲葉麻美は囚われてしまい、その挙句最も隠しておきたい“過去”を握られ、絶望を味わう。

 

終盤は刑事の捜査が間に合うのか、犯人が稲葉麻美を殺害してしまうのが先かというハラハラドキドキのクライマックスである。
犯人のサイコパスすぎる行動がさらに恐怖心を煽る。そんな犯人と同じ空間にいるだけでも恐ろしいが、稲葉麻美は監禁され両手両足を縛られ叫ぶことしかできない。この絶望や悲鳴を犯人がテンション高く真似するので、情や説得なんて聞きもしないような愉快犯である。つまり語らずとも人を殺めることに快楽を感じるタイプであることが容易に想像される。
トドメには「これから君を埋める穴を掘ってくるね」と絶望の死への猶予時間を与える。とことん絶望を味わう稲葉麻美に、監禁部屋の扉があき死を覚悟したが、現れたのは彼氏の富田誠である。

 

クライマックス

救助が成功しこれで助かったのかと思いきや、待ち伏せされていて鉄パイプのようなもので富田誠は不意打ちをくらい、犯人は稲葉麻美と富田誠の傷口を痛めつけながら稲葉麻子の禁断の過去を暴露しようとするが、稲葉麻美はそれを制し自ら自白。実はこの過去が稲葉麻美が結婚を躊躇する最大の原因で、実は本当の稲葉麻美は死んでいた。旧友であり親友であり同姓する仲の友達である山本美奈代(桜井ユキ)が本人の意向で「なり替わり」をしていたというのだ。

なりゆきは、本当の稲葉麻美は株式投資で生計を立てていたが、大失敗をした。それだけならまだしも、山本美奈代名義で闇金から借金していたため、借金取りに押しかけられる日々を送ってしまった。それに罪悪感を感じた本当の稲葉麻美は、山本美奈代として自殺することに決めたのだった。山本美奈代の所有物を所持して電車に跳ねられ、容姿の判断ができないほど原型をとどめない死に方をした。そして山本美奈子は整形手術で稲葉麻美として生きることで「なり替わり」が成り立った。

 

富田誠は絶望的な状況のうえさらに衝撃の事実を知り放心状態になる。その光景を十分に楽しんだ犯人が殺害に踏み切る瞬間に刑事が犯人の身柄を確保する。

この刑事が加賀谷学(千葉雄大)で子供時代犯人と同じ境遇だったことにより、犯人までたどりついた。シングルマザーの育てられネグレクト、育児放棄と虐待をされていたのだが、それでも長い黒髪の母のことが好きなのである。加賀谷学が愉快犯でサイコパスの犯人の知られたくない“過去”を衝いて、感情を揺さぶり動揺させたことが功を制した。

 

事件がひと段落付き、富田誠の前に加賀谷学刑事が現れ、事実確認把握のため稲葉麻美から預かったスマホを返したいが所在がわからず、恋人であるあなたなら居場所を知っているのではないかと尋ねられる。

それにより稲葉麻美は過去を暴露したことにより富田誠に見切りをつけられたと思い逃亡してしまったのだと察する富田誠。一番の思い出の場所であり2人の未来にかかわる場所。プロポーズの「答え」があるとしたらあそこしかないというように、告白の場所であるプラネタリウムに向かい再開。過去を受け入れ結婚というハッピーエンドの終わり方となる。

 

それと同時に、プラネタリウムにいた学生カップルがスマホを落としててしまい、そのままエンディングが流れる。

 

 

感想

スマホを落とすことや、セキュリティが甘いことがいかに危険かを考えさせられる作品だ。ただの忠告だけではなくその危険性をサスペンスとして表したのが面白い。

作品冒頭、ヒロインの彼氏富田誠(田中圭)がスマホをタクシーに忘れたことに気づき、会社に連絡するため公衆電話をさがすシーンで、「公衆電話」と声に出すが、そこで現実感よりも映画を観ている感覚が強く冷めてしまい、序盤物語に入り込むのに時間がかかった。

本作品を鑑賞し終え、思い返して感心したのは、物語の終盤の主人公たちの機転や、犯人の動機は物語の序盤にしっかりヒントが織り込まれていたことだ。

「ヘイSiri」や「OKGoogle」のような直接操作せず口頭で操作する機能、スマホ追跡GPSシステム(アプリ)、プロポーズを断るヒロイン、殺害される女性が叫んでも助けが来ないような場所、黒髪の長い女性、下腹部に刺し傷など、序盤に布石(フラグ)がしっかり打たれていた。刑事が最終的に犯人を追いつめるのは想定できるが、その前に彼氏が拉致現場を特定する部分が綺麗なフラグ回収で感動した。

さらに、本作のクライマックスを一層引き込ませる犯人(成田凌)の演技が魅力だ。すこしオーバーすぎるような演技におもえるが、サイコパスは常識を逸脱した行動とるから不気味なのである。劇中で観賞中は過度に興奮しすぎて不自然すぎないか?と感じたが、思い返すと不気味さが大きすぎたがあまり常識を超えてしまったのだと気づき、寒気がした。

 

犯人が「なりすまし」により主人公を追いつめるのに対して、主人公は「なり替わり」だったというオチも面白い。

 

スタッフ/キャスト

キャストは、北川景子田中圭高橋メアリージュンをはじめ旬の俳優・女優さんが多数出演している。スマホを題材にしているだけに「若さ」にこだわったのか、年齢層の高い大御所俳優さんなどが出ていないのが印象的だ。作中で年齢が高いと思われるベテラン刑事毒島徹(ぶすじま)役ですら3人組芸人ネプチューン原田泰造だ。同じく芸人のバカリズムも出演し、すごいハマり役に感じる。

犯人とITサポート会社のSE(システムエンジニア)役の成田凌の演技は必見であるが、この狂気的な犯人はヒッチコックの映画『サイコ』を参考にしているという。

 

スタッフは、監督中田秀夫、企画プロデュース平野隆、原作志駕 晃。

なかでも作品の魅力は、中田秀夫監督は大ヒットホラー映画『リング』の監督であり、『クロユリ団地』『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』18年だと『終わった人』などもある。個人的に意外だったのは『デスノート』で登場するLというキャラのスピンオフ映画である『L change the WorLd』も中田監督であったこと。幽霊などではなく人によるバイオテロという怖さを感じた思い出がある。

 

主題歌は『ヒミツ』作詞作曲:雫 編曲:ボルカドットスティングレイ。

 

パンフレット

f:id:Zizaika:20181111040302j:plain

表紙の画像である。

驚くべきこととに表紙でも1ページ目でも「全ページネタバレ」と忠告が書かれている。

 

想定鑑賞者

日常的にスマホを使う方は入り込めると思われる。

サスペンスとして怖さとスリルを求める方にもおススメ。

推理や探偵ものが好きな人にとっても、犯人の動機・犯人の行動を追う視点があり楽しめる。

 

・時代を反映しすぎている。

映画の公開が2018年であり時代に合った旬の映画であるが、2019年以降テクノロジーの発展により破壊的イノベーションが起きたとしたら現実味が薄れてしまうおそれがある。たとえば、リングのビデオテープはいまやDVD/ブルーレイの時代となり馴染みのない若い世代には呪いのビデオを身近には感じないようなものである。スマホのセキュリティが生体認証になったり、脳や体に直接埋め込まれるような時代になったとしたら、こんな映画の設定ありえねーとなってしまうかもしれない。

・トラウマがある方は注意

ホラーではなくサスペンスであり、違いは人以外の霊が恐怖を与えるのがホラー、人が恐怖を与えるのがサスペンスである。そのため怖さは直接的というよりも精神的である。ストーカー被害に遭われた方や監禁などの犯罪に巻き込まれた方はトラウマを思い返すかもしれない。

 

まとめ

時代を象徴する映画だけに、スマホFacebookのようなSNSが流行っている今のタイミングが一番楽しめる作品である。

中田監督のサスペンスとしてのホラーの表現が魅力であり、幸せから始まり徐々に恐怖に追いつめられるところはスリル満点。

序盤のフラグ立てが絶妙なので、DVD化やAmazonビデオなどで配信されたとしても序盤の何気ない平凡なシーンだからと飛ばしてしまうとクライマックスのフラグ回収の感動を味わえないかもしれない。

 

犯人である悪役の演技が映画界でもユニークな狂気を醸し出している。本作品は過度な残虐シーンはないにせよ精神的なスプラッター映画の印象を受けた。犯人の異質な狂気を魅力に感じた方は、小栗旬主演の『ミュージアム』などの映画を観てもいいかもしれない。